DISCOVERY STUDIOを使用した 抗体構造モデリング

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DISCOVERY STUDIOを使用した 抗体構造モデリング
DISCOVERY STUDIOを使用した
抗体構造モデリング
アプリケーションガイド
このアプリケーションガイドでは、 BIOVIA Discovery
Studio® ソフトウェアに実装されている最新の in silico
抗体構造モデリング ワークフローを紹介すると共に、
抗体ターゲットの構造モデルが必要とされる主な理由
について説明します。
概要
がんや炎症、自己免疫疾患といった幅広い病状の医療診断や
治療において、抗体の重要性はますます高まっています。ま
た、抗体薬物複合体(ADC)という形で、従来の薬剤をターゲ
ットとなる部位に送達するためにも抗体は利用されていま
す。従来の化学療法薬とは対照的に、ADC はがん細胞を選
択的に攻撃するため、正常細胞に対する深刻な影響を軽減す
ることができます。
図 1: 親和性を保持し凝集を抑制するように設計された
変異の前後におけるターゲットの凝集予測
(凝集傾向を示す領域を赤で表示)
抗体の主要な特性の多くは、配列からのみでは予測が不可能
であるか、あるいは3Dの抗体構造を把握することでより正
確に予測できるようになります。高品質の 3D 構造モデルが
有用である例としては、以下のようなものが挙げられます。
• ヒト型化
• 露出残基と埋没残基を特定することによる抗原性の可能性
の評価
• 親和性成熟
• in-silico (pHや温度の関数として)での変異による安定性ま
たは抗体結合(親和性)の変化の予測
• 製剤設計
• 開発可能性インデックスによるターゲットのランク付け、
または高い凝集傾向が予測される領域の特定(図 1)
開発および製剤設計の可能な限り初期の段階でこうした特性
に対する理解を深めることで、市場投入までの期間を短縮
し、総コストを削減することができます。X 線または NMR
から 3D 構造を取得できない場合には、BIOVIA Discovery
Studio によって生成された 3D in-silico モデルを利用できま
す。
図 2: フレームワークおよび CDR ループの残基の複数
のテンプレートから構造を生成
手法
BIOVIA Discovery Studio には、専門家だけでなくだれもが入
力配列にもとづいて高品質な抗体構造を生成できる、あらゆ
る機能が備わっています(図 2)。モデリング ワークフローと
しては主に次の 3 つの段階があります。
1. フレームワーク テンプレートを特定する
–– フレームワーク領域の配列の類似性が適切な高品質の
結晶構造を決定します。
–– オプションとして、相補性決定領域(CDR)の類似性を結
果に含めたり、生物種で配列をフィルタリングするこ
とができます。
2. フレームワーク テンプレートにもとづいて
3D モデルを生成する
–– 複数のフレームワークテンプレートを入力として使
用できます。ホモロジー モデリング ソフトウェア
(Modeler)により、コンフォメーションに拘束が適用さ
れた上で構造が構築された後、焼きなまし法によって
最適化されます。
3. 抗体ループを精密化し、
CDR コンフォメーションを予測する
–– 配列のばらつきが大きい CDR ループを複数の高品質な
CDR ループ テンプレートとのホモロジーにもとづいて
精密化します。また、テンプレートが利用できない場
合には、力場ベースの de novo 手法を適用します。
結果
このアプリケーションガイドは、抗体モデリング アセスメ
ント II [2] (以下「AMA-II」)に参加した結果をまとめたもの
です。この研究では、11 種類の抗体の Fv 配列から構造を
予測し、既知かつ未発表の結晶構造と比較して評価しました
(「盲検」試験)。予測された構造の解析においては、複数の
指標について、最も高品質なモデル構造を識別する指標とし
ての有効性が評価されました。
この研究により、主鎖の平均二乗偏差(RMSD)が構造の品質
を評価するための良好な指標ではないことが判明しました。
この従来使用されてきた指標では、主要な主鎖の配向を捉え
ることはできません。AMA-II [2]の研究結果から、アミノ酸
カルボニル基の炭素原子と酸素原子にもとづいて RMSD を
使用することが推奨されています。そのため、以下ではこの
指標(RMSDCO)を使用しています。
この研究では、文献[1]で説明されているように、さまざま
なワークフローを試みました。簡単に述べると、これらのワ
ークフローでは、単一のテンプレート、L 鎖と H 鎖に個別
の最適なテンプレート、または L 鎖の H 鎖に複数のテンプ
レートを使用したフレームワーク領域(FR)のモデリングを行
いました。CDR ループについては、CDR の長さは使用され
たアノテーション手法によって決定され、標準的なループの
種類の予測にもとづくフィルタリングをオプションで実行し
ました。
その後、11 個のすべてのモデルに自動構造決定機能が適用
され、これらの手法の相対的なメリットがより厳密に評価さ
れました。結果は図 3 にまとめられています。現在利用可
能なその他の手法と比較して、おおむね一貫して優れた結果
が得られました。
また、完全に自動化された構造生成機能により、限られた
CPU 性能と時間制限の中で生成した構造においても、専門
のモデリング担当者と同程度の精度を実現できることが明ら
かになりました[1]。
考察
AMA-II で使用された抗体には非常に難易度の高いターゲッ
トが含まれていました。たとえば、Ma2-01 (モデル アセス
メント II、構造 01)は、ヒトやマウスと比べて圧倒的にテン
プレート数が少ないウサギ由来の抗体でした。Ma2-05 に
は、κ軽鎖よりも結晶データベースへの登録数が圧倒的に少
ない λ 軽鎖が含まれていました。Ma2-10 には長い H3 ル
ープ(IMGT を使用した場合 16残基)が含まれていました。
BIOVIA Discovery Studio で開発、提供されているプロトコ
ルは、類似性スコアおよびテンプレート構造の解像性にもと
づいて候補のテンプレートをランク付けして出力結果を表示
するように設計されているため、半自動化されたワークフロ
ーで実行された場合に簡単にテンプレートを選択することが
できます。概して、最も優れた結果が得られたのは、フレー
ムワーク領域の生成時と、Model Antibody Loops プロトコ
ルを使用して CDR の最適なコンフォメーションを決定する
時の、両方において複数のテンプレートを選択した場合でし
た。
図 3: AMA-II に提出された BIOVIA (Accelrys)のモデルの結果
は、赤(モデル 1)、青(モデル 2)、緑(モデル 3)、実験後の解析に
おいて異なる自動化手法を利用して構築されたモデルの結果
は、紫(単一のテンプレート)、オレンジ(キメラ テンプレート)、黄
色(上位 5 つのテンプレート)の棒で示されている。各パネルの
背景のボックス プロットは AMA-II の参加者によって提出され
たモデルの分布を示す。ボックス内の太い黒線は中央値、ボック
スの上下の辺はそれぞれ第 1 四分位点と第 3 四分位点(上位
25% および 75% の値)を示す。ボックスの上下のひげは、四分
位偏差(ボックスの上下の辺の差)の1.5 倍以内にある RMSDCO
の最大値および最小値を示す。四分位偏差の 1.5 倍の範囲を
超える外れ値は、黒い点で示されている。(a) VL 領域の b コアに
ついて計算された X 線構造と比較したモデル構造の RMSDCO
。(b) VH 領域についての同じデータ。
この図は参照資料[1]の図
2 を転載したものです。詳細な考察については、同資料を参照
してください。
このフレームワークの RMSDCO データから、重鎖と軽鎖の
テンプレートを個別に選択した方が単一のテンプレートを用
いた場合に比較して類似度が十分大きくなる場合、それによ
ってメリットが得られることが明らかになりました。図 3 を
見ると、VL と VHでフレームワーク テンプレートを個別に
選択した場合、単一のフレームワーク テンプレートを使用
した場合と比較して、最悪の場合でもリーズナブルな、最良
の場合には、大幅に良いRMSDCO が得られています(ターゲ
ット 05、07、08)。図 4 は、Model Antibody Loops およ
び BIOVIA Discovery Studio の力場ベースのループ モデリン
グツールにより得られた CDR ループのコンフォメーション
が、参照用の結晶構造に対して最高水準の忠実性を提供でき
ることを示しています。
これは、配列の類似度がテンプレートによって異なる場合、
あるいは同一の配列でもテンプレートによって異なるコンフ
ォメーションが存在する場合に、Modeler ソリューションの
エンジンは、すべてのテンプレートから得られる制限に重み
付けを適用した上で組み合わせ、これを用いてターゲットの
コンフォメーションを精密化することができるからです。
図 3 は、AMA-II の各ターゲットについて、BIOVIAから提
出された 3 つのモデルと自動生成された 3 つのモデルの、
結晶構造に対する VL および VH の RMSDCO 値を示して
います。この図内のボックスは、BIOVIA による予測品質と
AMA-II の他の参加者から提出された構造の品質を比較した
ものです(図 3、説明文を参照)。
図 4: AMA-II に参加したグループごとのペプチド カルボニル
基の平均 RMSD 値。平均値にはウサギ由来のターゲットAb01
を除いた、各グループのモデル 1 を使用。参照資料[2]に提示
されたデータにもとづく。ACC は BIOVIA (Accelrys)を指す。
こ
こに示されている RMSDCO 値は、L 鎖のみ(VL)、H 鎖のみ(VH)
、5 つの標準的な CDR、CDR H3 である。Tilt (傾斜)は、VL 鎖と
VH 鎖の間の角度を、結晶構造と比較した場合の偏差を表す。
結論
抗体にもとづく診断や治療は、ライフ サイエンス分野の商
用市場で既に非常に重要な役割を果たしており、2003 年以
来、全世界における売上は 6 倍にまで増加しています[3]。
そのため、市場投入までの時間を短縮し、創薬段階の「初期
に欠陥を発見」する確率を上げることは非常に重要です。従
来、ハイブリドーマの作製の次に実施されるワークフロー
は、in vitro での最適化でした。
この最適化の目的は、不要な翻訳後修飾(PTM)を最小限に抑
え、凝集または粘度を低減することによって、免疫原性の抑
制、親和性の向上、安定性の向上を図ることです。上記の手
法による in silico での構造予測により、配列のみからは予測
できなかったバルクおよび分子レベルの主要な特性を予測す
ることが可能になります。立体構造モデルを使用すると、分
子表面の溶媒露出度および電荷分布を予測できます。
これは、候補となるターゲットを評価するために必要となる
主要な特性を推定するうえで重要な要素です。このような構
造モデルは単結晶の X 線結晶構造解析あるいは NMR 分光法
からも得られますが、こうした解析手法は高価なうえに多大
な時間がかかります。これらに代わる手法が、このアプリケ
ーションガイドで提示したホモロジーおよび力場にもとづく
モデリングです。
AMA-IIの盲検試験の結果[1][2]、AMA-II[2]評価に参加
した各研究者が最も精度が高いものとして推奨している
RMSDCO 比較指標により、BIOVIA Discovery Studio によっ
て生成された抗体モデルは代表的な高解像度結晶構造と比較
して優れた忠実度を示すことが明らかになりました。
図 5: BIOVIA Discovery Studio によって予測および描画され
た抗ガストリン Fv モデル構造
論文全文は、「Automated antibody structure prediction
using BIOVIA tools: Results and best practices (BIOVIA ツール
による自動抗体構造予測: 結果とベスト プラクティス)」から
お読みいただけます。
REFERENCES
1. Marc Fasnacht, Ken Butenhof, Anne Goupil-Lamy, Francisco Hernandez-Guzman,
Hongwei Huang, and Lisa Yan, Proteins, 2014, in press, “Automated antibody
structure prediction using BIOVIA tools: Results and best practices.”
2. Almagro JC, Teplyakov A, Luo J, Sweet W, Kondagantlil S, Hernadez-Guzman F,
Stanfield, Gilliland GL. Second antibody modeling assessment (AMA-II). Proteins, in
press.
3. Monoclonal Antibodies, 2010, Datamonitor Ltd, Report code: HC0029-002.
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